誕生日

掲載日:2019.04.30


4月に誕生日を迎えました。
今さらどうという感慨もなく、それでも「一つの区切りかな」という気持ちで、
ひとりで誕生日らしいことをしようと思いました。

近所に美味しいナポリピザのお店があります。
以前は気軽に行ってピザやパスタを楽しんでいましたが、
ここ数年はマスコミに取り上げられて札幌など近郊からたくさん人が来るようになり
予約なしでは行けなくなりました。

お店側も勘違いが始まってお高くとまるような接客になり、
私の足はしばらく遠のいていました。

でも、そこのクアトロフォルマッジが久しぶりに食べたくなり、
数年ぶりに予約もせずにランチタイムに行ってみました。
断られることも覚悟して行きましたが、店内は予想外にすいていました。

お目当てのクアトロフォルマッジに本当は赤ワインをつけたかったのですが、
(私は1年間アルコールなしでも大丈夫なほど普段は飲みませんが、
このピザには赤ワインが欲しくなります)
その後の予定もあり車で行ったため、コーヒーでがまんしました。

店内は、おしゃべりが尽きない女性のカップルが2組と、
私のようにゆったりと食事を楽しんでいる女性が一人。

私も友だちと一緒の時にはしゃべりまくりますが、
一人の今日は、「あなたもひとりの豊かさを味わえる人なんですね」
そんなつぶやきがひとりランチの彼女に浮かびました。

私は怒涛のようなこの1か月を振り返りながら、
よく頑張った自分をねぎらい、
いとおしむようにクアトロフォルマッジを味わいました。

心なしか、店員さんたちも以前のようなお高く留まった接客ではなくなっていて、
私は不愉快な思いをすることなく「ひとり誕生食事会」を終えることができました。

その足でグループホームにいる母のところに行きました。
最近はかなり生気が落ちてきて、
ベッドに横たわったまま会話もままならないことが増えました。

お医者さんが「この状態だと1か月空けることは不安だから」ということで、
月に1回だった訪問診療は数か月前から2週間に1回になっています。
私も改めて「その時」を意識するようになり、葬儀社を尋ねることも始めました。

ところがその日、母はホールのテレビの前のソファにちょこんと座っていました。
久しぶりに母が起き上がっている姿を目にして、驚くと同時に涙が出そうになりました。

「こんにちは」と声をかけると、
「こんにちは」「どこへ行ってきたの?」と返事が返ってきました。
会話もできる!

数か月前に行った時、職員さんに手を引かれて歩いていた母に
「こんにちは」と声をかけると、「だあれ?」と首をかしげました。
わかるはずもないことは知りつつ「紀代子です」と言うと、
「う~ん、わかんない」「だあれ?」とまた首をかしげます。

職員さんが「娘さんですよ」と母に言うと、
母は「あらそう! 『むすめさん』なんですね」「こんにちは」とにっこり。
職員さんと二人で笑ってしまいました。

そんなことを思い出しながら、私はソファの母の隣に座り、久しぶりに母とおしゃべりです。
いつものように母の手をさすり、その手を母の頬に持っていきました。
母の頬は柔らかくて羽二重餅のようです。

「柔らかくて気持ちがいいね」と言いながら母の頬を優しくさすっていると、
母が頭を私の肩にもたげてきました。
「ありがとう」と言いながら、まるで子どものように甘えてきます。

母の手や頬や頭をなでながら、何とも言えない「幸せ感」に包まれました。
こんな穏やかな時間が、母と私との間に訪れるとは・・・。

私を支配してくる母との衝突や葛藤を繰り返した時期がありました。
親戚や近所の人たちに「冷たい娘だ」と触れ回る母に、
「なんでこんな人が私の母親なんだろう」と恨めしく思った時期もありました。

そんな日々を越えてきた今、母は私の誕生日に、子どものように甘えてきます。
複雑な甘酸っぱい、それでいて「えも言われぬ幸福感」に包まれる時間でした。

母の元から帰り、少しのんびりしてから、夕方は体のメンテナンスです。
隣町の施術師さんは、ちょっと不思議系(人によっては「かなり怪しい」と感じる人)だけど
私には合っている感じがするので、20分車を飛ばしていきます。

最初に服の上から私の背中に触れて「かなり疲れていますね」という彼は、
どうやら人のエネルギーを感じることができるらしい。
一応「カイロプラクティック」の資格は持っているけれど、
それらしいことはほとんどしません。

施術をしてもらいながら、「クアトロフォルマッジに赤ワインをつけたかった」
という話をすると、「美味しいワインがあるから、プレゼントしますよ」とのこと。

帰りに、彼の一押しの赤ワインを誕生祝に1本いただきました。

ランチで食べきれなかったピザを包んでもらってきたので、
その日娘から届いた黄色のフリージアの花束の香りに包まれながら、
夜は念願の「クアトロフォルマッジに赤ワイン」を実現することができました。
う~ん、満足・・・。

ちなみに、フリージアの花束は花瓶ではなくバケツに入れました。
花束が入っていた段ボール箱にバケツをがっつり固定して、
それで初めて猫たちがどうしようと倒されない状態が保たれます。

「この子たちがいる限り、我が家に花瓶は置けないわ~」と、
バケツに挿した花束と一緒の猫たちの写真を娘に送ると、
「バケツはないっしょ!」(笑)と返事がきました。

誕生日直前の2週間ほどはいろいろなことがあり、
神経が高ぶって睡眠が浅く、疲れが残る日が続いていました。
その夜は、施術のおかげで久しぶりに深くて質の良い睡眠を取ることができました。

笑いと感謝の誕生日の一日でした。