発達性トラウマによる生きづらさからの解放

掲載日:2025.04.22


これまで見てきたように、子どもの頃に安心安全を(あまり)感じられず、
つまり親の顔色や意向や機嫌を気にしながら育つと、
無意識にこの場は「安心・安全」な場ではないと感じ、
自律神経は常に交感神経が活発化します。
「安心・安全」な時に優位になる副交感神経はほとんど出番は無くなります。

「交感神経優位」とは、脅威や危険から自分を守る自動反応です。
動物の一種として当然な「闘争・逃走」反応です。
相手が単純に敵であれば「闘争・逃走」反応は有効に機能します。

しかし、自分を脅威に陥れている相手が「親」である場合には、
この反応は難しくなります。

親と闘うことも親から逃げることもできない子どもは、
「闘争・逃走」ができずその脅威を固まらせてしまいます。

脅威に直面した時、動物には「3つのF」反応と呼ばれる反応が起こります。
動物は普通その脅威の対象と「闘う=Fight」か
そこから「逃げる=Flight」という行動を起こします。

でも闘うことも逃げることもできない時に、第3の反応「Freeze=凍り付く」が起きます。
例えば草食動物が肉食動物に襲われた時に、
この凍り付き反応が起きて仮死状態になることもあるそうです。
これは「意識的に」そうしているのではなく、脅威に対する反応として起こります。

動物によっては死臭まで漂わせるということですからすごいですね。
野生動物の中には、死んでいる動物の肉は避けるものもいるそうです。

いつもそうとは言い切れませんが、
動かなくなって死臭までする獲物のことは食べるのをやめて
次の獲物を探しに行ってしまいます。

脅威が去ると、フリーズしていた草食動物はブルブルっと体を震わせて、
元の状態に戻りうまく逃げおおせるということです。

動物はこのように脅威に対して適切に反応します。
しかし人間は、ブルブルっと体を震わせて脅威反応を解除することはなかなか難しく、
しかも親子関係では一時の脅威ではなく継続します。

脅威が繰り返され、そのつど解除することができなければ、
Freezeしたトラウマは身体や脳の奥深くに刻まれることになります。

そうやって「意識の下」に堆積したトラウマは、
意識には上ってこなくても無くなったわけではないので、
本人を脅威から守ろうと常に「無意識」的に反応します。

このトラウマ反応は脅威がない時でも常に警戒モードがオンになっているため、
自分がそうしたくない時でも反応してしまいます。
これは意識ではコントロールできないことです。

このように身体や脳の深い部分に刻み込まれたトラウマが、
大人になって親から離れ日常に脅威は無くなっても何かのきっかけで反応します。

親と似たような雰囲気の上司、親に叱責された時と似たような状況、香り、声、音など。
反応するトリガー(引き金)は日常の至る所にあります。

このように「発達性トラウマ」を抱えた人たちは、
トリガーに自動的に反応したり、働きすぎや過剰に他人に気を使うなど、
過剰適応して疲れ果ててしまいます。

職場でのストレスで精神科や心療内科を受診した際に
しばしば「適応障害」と診断名をつけられることがありますが、
それは「うまく適応できない」のではなく「適応しすぎ」だということに
医師を始めどれだけの人が気づいているでしょう。

このような苦しみや生きづらさを抱えて生きている人たちが、
実はこの社会にはかなり多く存在します。

しかし、この症状は本人にとってはなかなか説明しづらく、
また他人にも理解されることが難しいことです。

たとえ他人に話したとしても「あなたの気のせい」とか「気にしすぎ」
などと言われ、この苦しみを理解されないことに更に傷つきます。

こうして誰にも理解されない苦しみを独りで抱えて生きることになります。

私が今回このようにしつこいくらいに「発達性トラウマ」について書いているのは、
一つには親との関係で緊張感なく育った人たちに、
この生きづらさを抱えた人の苦しさを理解してもらいたいという願いがあるからです。

もしも友人に親とのことを打ち明けられたり相談をされた時には、
「親ってそんなものよ」などと自分の経験や価値観を安易に押し付けず、
打ち明けてくれた人の言葉や気持ちに寄り添ってみてほしいと願います。

そして「発達性トラウマ」についてしつこく書いているもう一つの理由は、
私のクライアントさんたちを始め「発達性トラウマ」に苦しんでいる人たちに、
「あなたが悪いわけではない」「あなたの性格のせいではない」と伝えたいからです。

今のあなたの苦しみや生きづらさは、
子ども時代のあなたが「精いっぱい自分を守ってきた術(すべ)だった」ということ。
「あなたはよく頑張ってきた」ということを改めて強く伝えたいです。

ただ、今はもうそのような方法を取らなくていいということを、
身体や脳の深い部分に刻まれた痛みに伝えて、
自動的に無意識的に起きてしまう反応を解除していく必要があります。

それが私がしているセッションです。
もちろん言葉を使いますが、無意識にあるものは言葉ではありません。

私の言葉に反応するクライアントさんの表情やしぐさ、声の高低や強弱・トーンなど
クライアントさんの無意識が発する信号や情報から、
どこにどのような痛みがあるのかを察知し、
その痛みを解放し、自動反応をどう解除していったらいいかを判断し、
クライアントさんに働きかけます。

無意識に働きかけるので、クライアントさんは何が起きたのか気づかないことも多いです。
でもセッションの後には解放感があったり楽になる感覚が生じます。

特に「発達性トラウマ」を抱えた人たちは結果を得ることを急ぐ傾向があります。
しかし「無意識」に安心してもらうには、大きな変化は好ましくありません。
「無意識」が警戒します。

まさに「無意識」に「気づかないまま」に変化が起きるのが一番良いのです。

ですから、何気ないおしゃべりをしているように感じられたり、
私がよく促すように「今のその感覚を感じる時間を取る」ことが、
とても有効になります。

「言葉」になる前の感覚、「言葉にならない」「言葉にできない」
ただ「よくわからない感覚」があふれてくることもよくあります。

それを批判も評価もせず、ただ浮かんでくるままに感じている。
最初は、一人ではなかなか「あるがまま」に共にいることは難しいことですが、
セッションを継続してくると、その「今の感覚と共にいる」ということが上手になってきます。

実はこれが「無意識にある痛み」を癒し「自動警戒反応を解除する」ことに
とても役立っています。

クライアントさんたちは、こうして自分でも「そのことと共にいる」ことができるようになってきます。
私がホールドする「安心・安全」な場で「自分自身と向き合う」練習を重ね、
日常での「気づき」に自分で向き合うことが上手になってきます。

こうして徐々に自分を取り戻し、変化・成長していくクライアントさんたちと接する時、
私は大きな感動と喜びを感じ、彼女たちに尊敬の念を抱きます。

自分の人生に真摯に向き合う素晴らしい人たちとご縁ができたことを
いつも心から感謝しています。