無意識の抵抗

掲載日:2024.08.27


多くの人は、セッションを続けていくと順調に過去の痛みを手放していきます。
そのプロセスで、本人も気づかない微かな抵抗が起こることはあります。
私はそれに気づきながら、そこを外していきます。

人によっては、かなり明確に無意識の抵抗が起こることがあります。
それはいろいろな形で現れます。

日常生活やセッション中に「ぼー」っとなることもあります。
セッションを受けることが憂うつに感じることもあります。
私に対して怒りを感じることもあります。
セッションが近くなると体調を崩すこともあります。
セッションの予約を忘れたり寝過ごしたりすることもあります。

それら全てが無意識の抵抗であるという訳ではありませんが、
本人の意思とは関係なく人によって様々な状態を経験します。

Mさんにも最近、その「無意識の抵抗」が顕著に起きています。
Mさんの了解を得て、Mさんに起きたことを通して、
書いてみたいと思います。

Mさん。
時々登場していただいているMさんです。
1年半ほど前に「あなたは今も」という文章を書いてくれた人です。
セッションを受けてもう3年以上になります。
本当は、これほど長引くことはなかったはずでした。

1年半前に私がMさんに「新しいクライアントさんに向けて文章を書いてほしい」
と依頼したのは、Mさんが「あと一息」というところまで回復していたからでした。

ところが、Mさんから寄せられたものは私の予想とは異なり、
彼女の壮絶な苦しみから生み出された文章が綴られていました。

私の想定した内容とはかなり違っていましたが、
とても胸を打つ、Mさんにしか書けない文章だったので、
私はそのままコラムに掲載させてもらいました。

「あと一息」だったはずのMさんの状態がどんどん悪化していくことに、
最初私は訳が分からず混乱しました。
やがて原因は会社であることが徐々に判明してきました。

本人は判断する気力さえ奪われた状態でしたので、
会社が原因で最悪なことになっていることを自覚してもらうには時間がかかりました。
会社を辞める決断をしてもらい、上司に申し出るまでに1年近くかかりました。

今は会社に「辞める時期」を引き延ばされている最中です。
管理職としての責任感が強く、人の何倍も働くMさんを、
会社が手放したくないことは容易に想像できます。
それでも、会社は彼女に非人間的な働かせ方はしなくなりました。

最近のMさんはやっと人間らしい生活を取り戻し、
異常な摂食障害も落ち着き、凄まじい自傷行為も止みました。

やっと、まともなセッションを再開することができ始めている最近です。

そんな矢先に、今度は「無意識の抵抗」が起き始めました。

彼女に起きていることの一つは、「ぼー」っとしてしまうことです。
日常が「プチ解離」のような状態であったり、
セッションで向き合おうとすると膜が張ったようになってしまったりします。

その前の異常な働かされ方から解放されて、
心身ともに疲れ果てた状態からの回復過程では、
しばらくの間ぼーっとなるのは当然のことと思います。

しかし落ち着いてきてからかなり経っての最近の「ぼー」は、
やはり無意識の抵抗と私には思えます。

もう一つの抵抗は、セッションを受けると思うと「憂うつになる」ということ。
セッション直前はとても嫌だと感じるそうです。

それをMさんは正直に話してくれるので、
私はそこから繋がりを保ち次のプロセスへと進めていくことができます。

なぜこのような無意識の抵抗が起きるかというと、
それまで心の奥底に厳重に抑え込んでいた「痛み」と
これから向き合うということを無意識は恐れるからです。

今まで「無いことにしていた」「感じないようにしてきた」ことで、
多くの人はここまで何とか生き延びてこられました。

無意識は、その人がこれ以上辛い思いをしないようにと、
近づこうとするものの前に門番のように立ちはだかってきました。
そのような意味で、無意識は常にその人を守ってきたと言えます。

でも「無いことにされた痛み」は、いつも思いがけない形で
その人の人生に負の影響を与えてきたのも事実です。

ですから、脅威がなくなった今は、一時は辛くてもきつくても、
奥底に閉じ込めている「痛み」と向き合う必要があるのです。

「痛みと向き合うこと」は、一人ではできないことです。
ここは、私のようなプロの力を借りる必要があります。

安全な形で少しずつ、硬く閉じられた「痛みの扉」を開いていきます。
長い間押し込められていた「痛み」を少しずつ安全に解放していきます。

それができて初めて、自分が納得のいく本当の人生を
始めることができると私は確信しています。

Mさんは私を信じてくれて、どんなイヤな気持ちも伝えてくれて、
そしてどんなに憂うつでもセッションを受け続けてくれています。

私は辛い思いを強いるために目の前にいるのではないということ、
本人がこれ以上辛い人生を歩まなくてすむように、
そして本人が本当の意味で幸せに生きるために、
「痛みの扉」を解放していく必要があるのだということを
無意識に少しずつ理解してもらえるように、
セッションを進めていきます。

そうすると無意識は徐々にとても良い分量の「向き合うべきこと」を
セッションの場に提供してくれるようになります。

私はその無意識からの「微細な提供」をキャッチして、
それを題材にクライアントさんに投げかけます。

そこを丁寧に向き合っていくと、
クライアントさんは「そうだったのか」というアハ体験や
小さな「スッキリ感」や「癒し」を体験することができます。

このような「小さなこと」と感じられる癒しを、少しずつ体験してもらいます。
「大物」を扱うと、無意識が恐れおののくからです。
無意識が警戒しない程度の「小物」を扱っていきます。

これを重ねていくと、無意識は「痛みの扉」を徐々に開いてくれます。
「無意識の抵抗」を解除するには、「少しずつ」が大事なのです。

毎回憂うつになるというMさんも、セッションが始まってしまえば、
終わる頃にはむしろ何らかのスッキリ感が生まれるようです。
とにかく「始まる前」がイヤなようです。

そのような意味で、私は「無意識の抵抗」がみられた時には、
無意識が守りたいと思っている「確信」に近づいたのだと
むしろ嬉しく思います。

会社のせいで1年以上を台無しにされてしまったMさんですが、
これからは無意識の協力を得ながら、
Mさんらしい幸せの道を探っていくことができるでしょう。