漫画で描かれた『過労自殺』 ・・・ 「その気もないのに自殺してしまう」

掲載日:2016.11.15


 イラストレーターの汐街コナさんという人が、過労自殺についてツイッターに投稿した漫画が話題になっていることをご存知の方も多いと思います。≪昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました≫というタイトルです。まだの方は、一度ご覧になってみてください。

 「過労自殺」に至る道筋を、漫画ゆえの描き方でとてもわかりやすく書いてくれています。コナさんは、「過労自殺と聞くと、『死ぬくらいなら辞めればいいのに』と思う人は多いでしょうが、その程度の判断力すら失ってしまうのがブラックの恐ろしいところ」と書いています。「まさに、その通りだ」と、「うつ」を体験した私は思いました。

 私はブラック企業に勤めていたわけではなく、自らの意思で仕事をしていたつもりでした。ソーシャルワーカーとして仕事をしていた時に、家で家族の介護をしている多くの女性たちが辛い思いをし「明日は親を殺してしまうかもしれない」と苦しんでいる姿を目の当たりにしました。「この女性たちの苦しみを少しでも減らすことができるなら」ということが発端で、もっと公正な町にしたいという強い気持ちで市議会議員という職に就きました。

 しかし議員としての仕事を誠実にやればやるほど、「やるべき仕事」は増えていきました。誰に強制されたわけでもありませんでした。でも、一つの課題を解決できたと思うと、その向こうに隠れていた課題が見えてきて、更に頑張らなければならない状況になっていきました。休みなく連日朝早くから真夜中まで働くうちに思考力も低下し、何度も降りかかってくる理不尽な状況に心が傷つきながらも、自分の痛みを感じていたら前に進めなくなるから(無意識に)感じないようにしていました。心配してくれる人に「大丈夫?」と聞かれても、「大丈夫」と反射的に答えるようになっていました。そうやって進んでいくうちに、私はコナさんの漫画のように周りが見えなくなっていきました。

 あの漫画の状況がものすごくわかります。「死にたい」と思っているわけではないのに「死んだらラクになるかも」とふっと思う瞬間が私にもありました。手抜きが上手にできない当時の私のようなまじめな人が追い込まれていくことが、今ならよくわかります。

 私は、そんなうつ状態を何とか抜け出して、その後思うところがあって相談の仕事に就きました。家族の問題に苦しんでいる人ばかりでなく、「うつ状態」に陥っている人や「うつ病」と診断されて会社を休んでいる人などのセッションも行ってきました。精神科や心療内科などで薬は処方されるけれど、それ以上には前向きにならなくて苦しんでいる人たちと少なからず関わってきました。

 結局、心を病んだ時には「安心」が必要だと実感しています。安心できる人間関係の中で、心にたまっていたこと、特に後回しにしていた「自分の事」を話していくことで、癒されたり大事なことに気づけたりしていくことが多いです。すると、見えなくなっていた周りの景色が見えてきて、「これしかない」と思っていた道の他に選択肢があることに気づいていきます。そうやって、次のステップに踏み出すことができるようになります。

 とは言っても、私のような相談業の人に繋がれる人は、「自分はこのままではマズイ!」と危機感を抱き、ネットで調べたりなどそこから抜け出すための行動を起こせるくらいにまだ少しでも気持ちのゆとりがある人でしょう。あるいは、周りの人(家族や友人)が、危機に気づいて半ば強引にその人を私につなげてくれたということもあります。とにかくつながれば、そこから新しい道に入っていくことができます。

 職場での「過労死・過労自殺」ばかりでなく、学校での「いじめ自殺」も同様だと思います。本人も「このままではマズイ」「何とかしなければ」と感じつつも、何もできないまま状況に流されていってしまう。だからこそ、周りの人が力ずくでもそこから距離を置かせる必要があるのです。 私は「力ずく」は基本的に嫌いです。人を「力」で動かすことには、「ノー」です。でも、「過労死」や「いじめ自殺」など「命」に係わることであって本人が自分では抜け出せなくなっている状況の時には、周りの人が「力」を使ってでもそこから引き離すことが第一だと思います。そして、できれば時間を取ってじっくりと話を聴いてあげてください。感情が入ってしまい自分では難しいと感じるなら、第3者、特に聴く訓練を受けた専門家につなげるのがいいと思います。

 とにかく、一時的に判断力を失っている心優しいまじめな人たちをこれ以上苦しみの中に1人で置いておかないでください。後悔することのないように、たとえ一時は恨まれようとも、その人がそれ以上「死」に向かうことを阻止してください。そうすれば、いつか「あの時はあぶなかったよね」と笑って話せる時が来ます。

 私はたまたま「死ぬチャンス」がなかっただけで、チャンスがあったら「死んでいたかもしれない私」です。だからこそ、「あの時に助けてもらえなかった私」「助けてと言えなかった私」を今、少しでも助けたい(と言うとおこがましいですが)と思っています。そのような人とご縁が繋がった時には、「絶対にここから良くなっていく」という確信と共に関わらせていただいています。

 その人が本来歩むべき道がちゃんと見えるように、一緒に話をしていきます。すると徐々に、これまで考えたこともなかった新しい道が見えてくることが多いです。その人は、本来のその人自身の健康で幸せを感じながらの道を歩んでいくようになります。みなさん例外なく元気になられています。

 だから私は確信を持ってお願いします。どうぞ、目の前に「自分のことが見えなくなるくらい追い詰められている人」がいたら、止めてください。そして話を聴いてあげてください。あるいは「聴ける人」につなげてあげてください。そこから必ず、道は見えてきます。後悔しないように、勇気を持って一歩を踏み出して手を差し伸べてあげてください。お願いします。