医療雑感
掲載日:2024.07.30
5か月に渡る肩のリハビリが終了しました。
理学療法士(以下PT)さんによるリハビリを週に一回5か月続けると
(たぶんお互いに)人柄もわかってきます。
私の担当PTさんは、誠実さが伝わってくる30代後半の男性でした。
実は最初の1か月は30代半ばの女性PTさんでした。
彼女は自分の力量に自信があるのか、
彼女のやり方をグイグイ薦めてきます。
しかし彼女のお薦めのやり方をすると肩の痛みが増します。
そのことを伝えても、彼女は自分のやり方を変えようとしません。
私は徐々に不安が増していきました。
ちょうど1か月経った頃に、
私の希望日に彼女がお休みを取るということで、
別の人が代理で担当してくれることになりました。
その人が後に私の担当となるKさんでした。
当然引継ぎを受けていたはずのKさんですが、
引継ぎ項目をうのみにせず私の現状を丁寧に聞いてくれました。
「今ここ」の私の現状に謙虚に耳を傾けてくれることを感じました。
そこから「じゃあ、こうしてみてもらえますか?」と提案してくれます。
私は言われた通りの動きをしてみます。
「どうですか?」「痛みは増しますか、減りますか?」と
小さな動きをするたびに確認してくれます。
私の反応を見て「では、今度はこうしてみるとどうでしょう?」と
少しずつ動作を付け加えたり
「これは違うようですね」と訂正したりを繰り返します。
初めてのPTさんでしたが、私は安心安全を感じました。
自分のやり方を押し付けるのではなく、
私の言葉に耳を傾け、それに沿って提案をしてくれます。
患者との誠実な向き合い方と、確かな実力を彼に感じました。
その時間の終わりに私は彼に
「あなたに担当になってもらうことはできませんか?」と尋ねました。
最初の女性PTさんは気を悪くすると思いましたが、
この先の私の肩の健康がかかっています。
「大丈夫ですよ」という思いのほか軽く了解をもらい、
私の担当は彼に変更となりました。
その後も彼は全くぶれずに丁寧に誠実にリハビリを指導してくれました。
見ていると他のPTさんから頼られていることもわかりました。
そんな時にも決して偉そうではなく、淡々と必要なことを教えているようでした。
年齢に比べて落ち着きと謙虚さを兼ね備えている彼に、
肩回りをほぐしてもらっている時に私は聞いてみました。
「あなたは他のPTさんとどこか違う気がするんですけど、
どこでどんな経緯でそんなふうになったんですか?」
彼はそう言われて少し恥ずかしそうに
「僕は別にみんなと違うとは思っていませんが、
何か違いがあるとしたら大学病院での経験が大きかったかもしれません」
と答えてくれました。
多くは語らず私もムリには聞きませんでしたが、
大学病院でのリハビリは命に直結することが多く、
彼はいろいろな経験をしてきたようでした。
本州の大学病院で数年の経験を経て、北海道に戻ってきたということでした。
「人の生き死にに関わる体験は大きかった」という彼の言葉には重みがありました。
そうやって彼のリハビリを受けている間に、今度は指を痛めてしまいました。
かなりの痛みで指が使えません。
私の担当医は肩の専門医ですが、
肩を診られる人だからと言って指もその範疇なのだろうかと思い、
PTの彼に聞いてみると「手外科」というものがあると教えてくれました。
手の専門の整形外科医がいるとは知りませんでした。
ネットで調べてみると、私が車で通えそうな札幌の病院に
手外科の医師を見つけました。
早速行ってみるとものすごく混んでいました。
2時間ほど待ってやっと待合室に呼ばれました。
医師は私の顔を見ることもなく「どうしました?」と尋ねることもなく、
「ここに手を置いて」「反対にして」「指を曲げて」
「へバーデン結節だね」と言って指にギブスを巻きました。
特に説明もなく「もういいよ」と早々に診察室から出されました。
私は言葉をはさむこともできませんでした。
何となく「モノ扱い」されたような気分でした。
あれだけ忙しければ先生もゆとりがなくて
ああいう診察の仕方になったんだろうと
頭の中で何とか善意に解釈して自分を落ち着けようとしました。
どういう状況なのか今後どうなるのかの説明もなかったため、
当面ギブスをつけて様子を見るしかないなと釈然とせぬまま帰ってきました。
けれど3週間経っても指の痛みは変わらず、
徐々に指が動かなくなっていく気がします。
今度はしっかりと話をするぞ!と気持ちを強く持って再受診をしました。
再受診の日はなぜか前回と違いとてもすいていました。
私の後に患者さんはいませんでした。
でも医師の態度は全く変わりませんでした。
それでも私も「伝えることは伝えなければ」と
「この指の状態はへバーデン結節に似ていますが、
中学時代にソフトボールが直撃してそれ以来この状態なのです」
「1か月前に突然バキッという感じで痛みが出ました」と
すごく頑張って伝えましたが、
「あんた、人の言うこと聞かないね」と一蹴されてしまいました。
心の中で「どっちが!」と思いましたが、
この医師は忙しいからではなく、
患者とコミュニケーションを取る気はないのだとわかりました。
「患者は黙って言われた通りに従え」という態度でした。
手外科の専門医なのですから診断は正しいのかもしれません。
でも私の気持ちは救われません。
なぜギブスなのか、いつまでしているのか、今後どうなるのか、全くわかりません。
忸怩たる思いで数日を過ごしました。
そして私は考えました。
来週、肩の再受診があります。
その時にダメもとで肩の先生に指のことを聞いてみようと思いました。
「どのように伝えようか」「こう言われたらどう言い返そうか」etc.
たくさんシュミレーションして診察に臨みました。
当日、肩の状態を確認して
「肩甲骨の動きはだいぶ良くなりましたね」
「でももう少し柔らかくなりますから頑張ってください」と言われ、
「はい、がんばります!」と答えた後で、
「先生、実は指が痛いんです。
この指は一見するとへバーデン結節のようなんですが、
中学の時にソフトボールが直撃してそれ以来この状態なんです。
2か月ほど前に突然バキッと骨に何かが起きたような感じになって
それ以来とても痛いんです」と一生懸命に訴えました。
すると先生は「じゃあ、レントゲンを撮って診て見ましょう」と言ってくれました。
そしてレントゲン写真を見ながら
「骨が変形していますね」
「きっかけは怪我でしょうが、今の痛みはへバーデン結節によるものだと思います」
「動かさなければやがて動かなくなり、そうなると痛みは無くなります」
「痛くても動かしていれば、動きます」
「どちらを取るかですね」
そう言うお医者さんに「先生ならどちらを選択しますか?」と聞くと、
「僕は動かなくなるのはイヤなので痛くても動かします」と答えてくれました。
そして「実は僕も昔怪我をしたところが今はへバーデン結節で痛んでいます」
と、ご自分の指を見せてくれました。
そのやり取りで私の気持ちは救われた気がしました。
その先生は私の言うことにも耳を傾けてくれて、
適切に診断してくれて今後のことも話してくれて、
ご自分のことも話してくれました。
ちゃんと人間として向き合ってもらった感がありました。
この先生とは言葉や気持ちのキャッチボールができました。
手外科の医師からはドッジボールでボールをぶつけられただけな気がします。
しかもこの肩の先生だって、あの手外科の医師に負けないくらい忙しい先生です。
診察予約が2,3か月待ちの先生です。
それでも人間味のある対応でした。
「忙しさ」は言い訳にはなりませんね。
というわけで、私は指のギブスを外しました。
あのままギブスをはめて指を動かさないでいたら、
指が動かなくなるところでした。
私も、痛くてもできるだけ指を動かしていこうと思います。
「あの先生だって痛くても頑張っているんだから私も頑張ろう」って、
そんなふうに勝手に勇気をもらっています。
人って、やっぱり気持ちですよね。