ドラマセラピー

掲載日:2024.04.09


先日、数年ぶりに札幌で開催されたドラマセラピーのワークショップ(WS)に参加してきました。

私とドラマセラピーとの出会いは、たしか7,8年前になると思います。
何かの催しの分科会でドラマセラピーを初体験しました。

その時に、「楽しくて、人に優しくて、深い」という印象を持ちました。
その後、札幌の精神科クリニックで年に2回ほど開催されるWSに参加して、
すっかり気に入ってしまいました。

「もっと学びを深めたい」と、研修を受けに東京に毎月通いました。

≪エッセンシャルコース≫を終了し、
そのまま「トレーナーの道に進みたい」という気持ちもありましたが、
私の流れは「発達性トラウマ」に苦しむ人たちの癒しに向かいました。

そこから4,5年が経ち、コロナをはさんで、
札幌で4年ぶりにWSが開催されるということで参加してきました。

ドラマセラピーとは、「演劇を用いた心理療法」です。

演劇といっても、役者さんのように演技をするわけではありません。
当然、演技が上手とか下手とかは全く関係がありません。

私の印象としては、出されたお題(テーマ)に自分なりに乗っていけばいいという感じです。
これに脚本はありません。
「はい、どうぞ」と言われて、瞬間的に自分なりの言葉や演技をするのです。

例えば、今回のお題の中の一つとして、
「ホームレスのおじさんが野良猫に話しかける」というものがありました。
それを初対面の人とペアになって演じます。

人によっては「なあ、俺たち何でこんな人生になっちゃったんだろうな」と
嘆きの対話に入る人もいます。

ちなみに私は「なあ、ノラよ。俺たちは自由でいいよな~」と話しかけました。
ネコ役の人は「うん、そうだね」「けっこう優しい人もいてさ」と返し、
私は「それはいいな。俺なんて、この間若いやつに蹴飛ばされたぜ」と返し、
更に続けて「まあ、たまにはキツイこともあるけど、この自由には代えられないよな」
・・・・と、こんな感じで数分間ペアで対話をします。

出されたお題に対してどんなセリフを言うかは決まっていないので、
それぞれがアドリブで自分の言葉を発することになります。
そこに思わずその人の考え方や価値観が現れます。

午前はそのような短い場面の寸劇をしました。
いくつかの場面を与えられたときに自然と出てきた言葉によって、
私は自分にとって「自由」ということが大切なんだと改めて気づきました。

「演じる」というエクスキューズがあることで、
人は思わず自分の本音を語ってしまうものだと思います。

劇作家のオスカー・ワイルドは、
「人は自分自身として語るとき最もその人自身から遠ざかっている。
仮面を与えよ。そうすれば、人は真実を語るであろう」
と言ったそうです。

ドラマセラピーのWSに参加すると、この言葉の意味がよく分かります。

「仮面をつける」つまり「役を演じる」ことは、
「これは私じゃないもんね。役を演じているだけよ」という大前提に立てるので、
安心して思わず本音が出てしまいます。

「私ってこんなことを思っていたのね」と自分の本音に驚くことがあります。
でも大丈夫。「役だから」と言えるのです。

もう一つ、私がドラマセラピーが好きな理由は、
普段の自分と違う役を演じることでストレス解放ができることです。

私たちは実はいろいろな面を持っています。
普段人には見せない部分、見せてはいけない部分もあるかもしれません。

100%良い人も、100%悪い人もいません。
誰もが良い面も悪い面も持っています。

私はドラマセラピーのWSで「悪役」を演じるのが好きです。

ドラマセラピーのその時のテーマと構成にもよりますが、
たいてい午前でミニワークをいくつもやった後に、
午後に少しまとまった演劇をすることが多いです。

いろいろなことが演劇のテーマになりますが、
悪役が出てくる場面は、これまで私が体験した中では、
「ブラック企業で追い詰められていく人」とか「白雪姫」など、
昔話から現代までの様々な課題がテーマとして出されました。

お題が出されると、事前に誰がどの役をやるかを決めます。
私はたいてい悪役に手を上げます。
「部下を追い詰めていく上司」とか「白雪姫の継母」とかです。

今回は昔話の「舌切りすずめ」でしたので、
当然「意地悪で強欲なお婆さん」の役をさせてもらいました。

そこで「ブラック紀代子」や「ダークグレイ紀代子」を思い切り解放します。
現実では人に意地悪なんてできないでしょう。
でも私の中に確かにある「意地悪な部分」が架空の中で表現できて、
スッキリします。

ドラマセラピーの創始者のエムナーも
「演劇における役は、人を保護すると同時に解放する」と言っています。

「保護する」というのは、
「これは私ではない」「演じているだけ」と、自分を守ることができるということです。

そして「解放する」ということは、
抑圧されたり、無意識に抱いている感情を解放できるということです。

これらの感情を安心安全に解放できるということは、
実は私たちにとって必要なことだと思います。

そして「抑圧されたり、無意識に抱いている感情を解放できる」だけではなく、
他者を演じることによって、いつもの自分とは違う視点に立つこともできます。
思ってもいなかった気づきを得ることもあります。

「私ってこんな意地悪な部分があるんだ」とか
「こういう悪いことはさすがにできないんだな」とか、
「こんなことを大切に感じているんだ」など、
普段あまり気づいていなかった自分に気づくこともよくあります。

今とは違う人生や人物を体験できるのは、楽しいです。
悪役でなくても、全く違う人を演じるのはとにかく楽しいです。

だから私はドラマセラピーが大好きです。
みなさんにもお勧めします。

ただ、以前は東京でも他の地域でも開催されていたWSが、
講師の尾上先生が今忙しくて開催の予定がないそうです。

今回札幌で開催されたのは、
先生がずっと関わっている精神科クリニックの患者さん向けのWSをするために来道して、
そのついでに一般向けにWSを開いてくれたということです。

今回の参加者の中には、東京から参加した人もいました。
札幌で受けられて私たちはラッキーでした。

今回、先生には東京や札幌でもまたWSを開催してほしいとお願いしておきました。

講師の先生は、立命館大学大学院教授の尾上明代さんです。
大学院の授業ではドラマセラピーを扱っているようですが、
仕事が落ち着いたらまた一般向けのWSの開催を検討するということでした。

機会があったら、参加をお勧めします。

自分の素性を開示する必要もなく、
誰も自分を知っている人がいない中で、
自由な自分になってみてください。

先生からWS開催の連絡が来たら、
この欄でお知らせしますね。