おお、ブラジル!

掲載日:2020.07.07


新型コロナウィルスの感染確認者が東京で増えていますね。
そして、世界中でも感染がかなり拡大しているようです。

感染が拡大している国々、特にブラジルについては、
ブラジルのトランプとも称されるボルソナロ大統領の
新型コロナウィルスに対する認識やそれに伴う対策のひどさに唖然とします。

多数の死者が出て墓地が足りなくなり広場に穴を掘って物のように遺体を埋めている様子に、
「リーダーの選択を誤ると、国民にこれほど悲劇がもたらされる」という
明確なお手本を見せつけられているような気持ちです。

とは言え、日本にいて、しかも感染が報告されていない町でかなり普通に生活していると、
東京はともかくブラジルを始め世界で感染が拡大していることは、
胸は痛みながらも、やはり遠くの他人事のように感じていたというのが正直なところです。

ですから、そのブラジルでの感染拡大が自分に直接影響を及ぼされるとは、
夢にも思っていませんでした。

話はいったん変わります。

世界で今、トラウマケアで注目を浴びている治療方法のトレーニングが、
今年の秋、札幌で開催されることを昨年知りました。

わざわざ東京まで行かずとも札幌で受講できるなんて、
なんてラッキー! このチャンスを逃す手はないと思いました。
今年の4月1日から募集が開始され、私も応募しました。

日本にはトレーナーの資格を持つ人はおらず、海外からトレーナーが来ます。
本部はアメリカなので、応募申請書類の様式も
日本では当たり前の「生年月日」や「年齢」を書く欄はありません。
学歴や専門分野、資格、実践経験、クライアント数、応募動機などが問われました。

募集定員は45名ということでした。
私は、「そんなにたくさん応募する人はいないでしょ!」と思っていました。
ですから、申請書類はそれほど熱意も込めずに淡々と書いて提出しました。

ところがふたを開けてみると、募集締め切り後に事務局から
「定員45名のところその2倍を超える94名の申込があった」と連絡がありました。

「この数字は、トラウマケアへの高い関心と熱意の表れと受け止めている。
本来であれば申請者全員に参加してほしいがそれはかなわず、
現在トレーナーと事務局とで参加者を選考中のため決定にはもう少し時間が欲しい」とのことでした。

この連絡を受けて、私は焦りました。
何という不覚!

開催地は札幌だからと言って北海道内だけからの応募とは限らないこと、
むしろトラウマケアに関わっている人間なら何としてでも受けたいと思うであろうこと、
従って参加希望者は日本中にいるということの認識に欠けていました。

今回より前に昨年から始まった東京でのトレーニングでは、
臨床心理士はもちろん精神科の医師や著名な治療者たちが参加しているということを、
私は事務局からの連絡の直後に漏れ知ることになりました。

「これはまずい!」「こんなことなら、もっと熱意を込めて申請書類を書けばよかった!」
と思っても、「あとの祭り」です。
やはり、「いつでもどんなときにも自分の精いっぱいで物事に取り組むべき」でした。

終わった~。と思いました。
そんなすごい人たちが応募する中で(って、実際にはどんな人たちが応募したか知りませんが)、
特に著名でもなくたいした資格もない私が選ばれる可能性は低いと思いました。

そう思ったその瞬間から私には、参加者から外されることの痛みやダメージを
少しでも和らげる心理が作動し始めました。

大好きだった人が自分から去った時に、「もともとそんなに好きじゃなかったし」とか
「顔が本当はタイプじゃなかった」とか「けっこう性格悪かったよね」などと、
「いなくなってもたいしたことないよ」と自分に思い込ませるような心理ですね。

私の場合は、
「毎年10月と5月にそれぞれ1週間のトレーニングをこれから3年間も続けるなんて、
時間も体力もエネルギーも使うことは、64歳の私にはかなりハードだわ。
今からそんなキツイことを無理にしなくても、今の私でけっこうトラウマケアできてるし・・・。
参加費用だって決してお安くないし。。。」

だから参加者に選ばれないほうが、私にとっては良かったんだ。
お金も時間もエネルギーも、これからはもっと自分のために使えばいいんだ。
ここまで頑張ってきたんだから、これからはもっとのんびり過ごそうよ。

そんなふうに毎日自分に言い聞かせているうちに、
本当にそうだよね、選ばれないほうがいいよね、という気持ちになりました。

ところが、ところがです。
難航していた人選の結果が当初予定より数日遅れで届き、
なんと、私は参加者として選ばれていました。

(軽く)ぼう然、としました。
「参加者として選ばれた喜び」よりも、「驚き」のほうが大きくて。。。
だって、すっかり「参加はない」と思い込んでいましたから。

ここから自分の気持ちを「参加」へ切り替えるのに、少し時間を要しました。
参加を熱望していたのに叶わなかった人たちには大変申し訳ないのですが、
知らせを受けた瞬間の「え? 私、参加するの?」。
それが正直な私の心境でした。

今回の募集受付直前には、すでに世界中で新型コロナウィルスの感染拡大が始まっていました。
事務局からは、感染状況によってはトレーニング形態が変わる可能性を告げられていました。

そして先月、参加が決定したメンバーに入った連絡は、
「今回のトレーナーはブラジルからの来日予定だったが、
現在の状況から判断してブラジルの出入国は難しく、
10月のトレーニングは苦渋の決断だがオンラインで行う決定をした」ということでした。

なんということでしょう。
よりによって、「直接対面」での関わりが重視されるトレーニングが、
講師が来日できずオンラインで行われることになるなんて!

おお、ブラジル! おお、コロナ!

しかもブラジルは地球の反対側なので、時差が真反対です。
ブラジルの午前10時は、日本の午後10時です。

というわけで先日発表された正式なトレーニングスケジュールは、
日本時間8:30~11:00、その後午後の時間を休んで
17:30~21:00のトレーニングというものでした。

私は、夜は仕事も入れずリラックスした時間を過ごすようにしてきました。
それは、「自身の健康」と「良い状態でクライアントさんと向き合えるように」、
17時以降は副交感神経優位にして心身のバランスをよくするためです。

それなのに、17時半~21時までをリラックスどころか、
非常に集中して交感神経優位に過ごさなければならないなんて。

そんな生活を1週間も続けることを思うと、今からどっと疲れを感じます。
生活リズムが狂って、体調を崩すのではないかと案じられます。
「やっぱり選ばれないほうが良かったかも…」なんて、思ってしまいます。

そんなマイナス思考に向きがちな私の気持ちを変えてくれるのは、
やはりクライアントさんの存在です。

実際にクライアントさんとセッションをしていると、
「ああ、この人がもっと早くこの苦しみから解放されるように
もっと良い関わり方ができるようになりたい」と痛感することがあります。

その「苦しみ」とは、
大切な人を突然失うことを含め事件や事故、災害などで
耐えられないほどの大きなダメージを受けたことによるものや、
不適切な養育や虐待、いじめ、パワハラなど一定期間にわたり心を傷つけられるなどの結果、
受けた傷が、今のその人の心に刻み付けられていて生きづらさとして作用します。

トラウマの苦しみは、「もう過去のことだから」という理屈では決して解消しないものです。

その苦しみを解消・解放する手段を、私は手に入れられるかもしれない。

少なくとも、その願いをかなえられる可能性を、今私は手にできたのです。
だったらごちゃごちゃ言ってないで与えられたこのチャンスをありがたく受け取り、
精いっぱい学び、自分を高めていくことしかないでしょ!

変則的なトレーニング時間のダメージを少しでも軽減できるように、
今から体力をつけ、できるだけ予習もして準備をしておきましょう。

与えられたチャンスに感謝して、
精いっぱいの自分で取り組んでいこうと、今は思っています。
(正直、まだ自信はないけれど…。)