「初心」を忘れないことは難しい?

掲載日:2022.08.02


「眠っている時に息が止まって苦しくなって目が覚める」ということが時々起きていることに、
数年前に気がつきました。
睡眠時間はたっぷり取っているつもりなのに、「目が覚めた時に頭が痛い」ことがありました。

「睡眠時無呼吸症候群」の可能性があることを感じました。
一度検査をしたほうがいいなと思いましたが、どこで受診したらいいかわかりません。
ぐずぐずしていましたが、去年「これはヤバいかも」と感じるようになりました。

東京に住む娘に言ったところ、
我が家から徒歩10分の所に開業したばかりのクリニックをネットで見つけてくれました。
「ホームページを見る限りでは、良さそうだよ」と教えてくれました。

ごあいさつのところに「安心して通える街のお医者さんを目指して」と書いてあります。
若いドクターですが熱意がある感じがしました。
「睡眠時無呼吸症候群の簡易検査も手配できる」とあります。

そこで去年、健康診断も兼ねて受診し、症状を相談しました。
良くしゃべるドクターでした。
私が質問すると3倍くらい話します。
知識が豊富な人だなと思いましたし、熱心な人なのだろうと思いました。

「睡眠時無呼吸症候群の疑いが濃厚」ということで、簡易検査を受けることになりました。
後日、睡眠中に付ける検査の器具が届きました。

二晩それを取り付けて眠りましたが、
器具がついていることで私は熟睡することができませんでした。

結果として「睡眠時無呼吸は軽度」と判定されました。
熟睡している時に呼吸が止まるので、私は検査器具をつけると熟睡できず、
問題になるほど呼吸は止まらなかったということです。

「もう少し様子を見ましょう」と言われました。

しかたなく1年が過ぎ、今年も健康診断を兼ねて受診しました。
去年までは基本健診(尿・血液検査、肺のレントゲン、心電図)の他に
大腸と胃がん検診も含めて受けていましたが、
「もうこの年になって癌になるならそれでもいいな」と思うようになり、
今年はがん検診は受けませんでした。

一通りの検査が終わり、ドクターによる問診となりました。
私は、日ごろ少し気にかかっていることを尋ねてみました。

どれに対しても「もう年なのでそれは仕方ないですね」というそっけない返事です。
「睡眠時無呼吸症候群」に関しても、
「器具をつけて熟睡できないのであれば仕方ないですね」というコメントのみでした。

その通りなのかもしれませんが、私の不安感に「寄り添われた感」がまったくありませんでした。
一つ一つが切り捨てられる感じがしました。

がん検診も受けず、基本健診のみの患者であり、
これと言った疾患もなく普段は病院にかかることもない私は、
クリニックとしてはうま味がないのかもしれません。

それにしても、「安心して通える街のお医者さんを目指す」態度ではありませんでした。
もともとホームページに書いてあったことは営業用の言葉だったのか、
それとも開業した時には抱いていた本音だったけれど、
実際に開業してみたら経営が大変で気持ちの余裕がなくなったのか、
あるいは私の受診日にたまたま気がかりなことを抱えていたのか、
理由はわかりませんが、たった1年で態度がとても変化していました。

諸事情により、「初心を忘れない」ことは難しいことなのかもしれません。
でもたった数年で「初心」を忘れてしまったとしたら、やはり残念な気持ちです。

私としては、これからの人生に寄り添ってくれるお医者さんが近所にいてくれると思うと、
とても心強く安心を感じていたのですが、
「街のお医者さん」ではなく「患者がお金にしか見えない医者」になってしまったのだとしたら、
「ブルータス、お前もか!」という残念な気持ちです。

そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、その足で皮膚科に行きました。

その皮膚科を受診するのは3回目です。
半年ほど前に、唇にできた血管腫を診てもらい、
手術が上手だという札幌の形成外科を紹介されて以来です。

初めての受診は3年ほど前のことでした。
ピアスの穴がグシュグシュして治らないので受診しました。

あの時、診察室の前で待っている私の耳に、
処置室での患者さんと先生の会話が聞こえてきました。

けっこう大変そうなアトピーを抱えている患者さんに対して、
先生はその辛さに寄り添うような言葉をかけていました。

うっすらと聞こえてくるその会話を耳にしながら、
私はなんとなく安心感を覚えました。

同時に、そんな辛い症状を抱えている患者さんと比べ、
ピアスの穴がグシュグシュしているくらいで受診する自分が申し訳なく感じました。

そんな気持ちを抱えながら先生の前で症状を伝えた私に、
先生は全く分け隔てする感じもなく私の症状に耳を傾けてくださいました。

別に大げさなことをするわけではありませんが、
ちゃんと目の前の患者に寄り添ってくれる感がありました。

そして今回の受診理由は、
左手の中指と薬指の間の湿疹のようなものがなかなか治らないというものです。

重症な皮膚の疾患を持っている人と比べたら、
これも申し訳ないくらいの症状ですが、本人にするとプチストレスが続いています。

そして今回も先生は、私の症状と丁寧に向き合ってくださり、
言葉をかけていただき薬を処方してくださいました。

ただそれだけのことですが、3年前と全く変わらず誠実に患者に寄り添う若い医師に、
私の心は救われた気がしました。

「安心して通える街のお医者さん」
彼こそが、そんな存在だなと感じました。

皮膚科は私にとってめったに行くところではないのが微妙に残念な気持ちですが、
まずは彼のようなお医者さんがこの町にいてくれることが嬉しいですし、
できれば彼のような「内科医」がこの町にいてくれたらいいなと願います。

どんな職業であっても、目の前の人に誠実に寄り添うことは基本だと思います。

目の前の人や仕事に誠実に向き合う人たちが、
この社会の「まっとうさ」や「安心」や「優しさ」を支えていることをいつも感じています。