自分の仕事の意味は?

掲載日:2017.07.25


東京での用事を済ませて京急で羽田空港に向かっている車内で、何となく視線を感じました。
周りを見回してみましたが、知った顔はありません。
「気のせいか・・・」と思って本を読み始めましたが、やはり何かを感じます。

もう一度よくうかがってみると、左方向から視線を感じます。
私の左には小学生が二人いて、その向こうにスキンヘッドの体格の良い外国人が座っています。どうやら視線の主は彼のようです。

それとなく彼に注意を向けていると、確かに私のほうをチラチラと見ています。
私は右端に座っているので、私の右側に人はいません。
窓の外に何か興味深いものでもあるのかと振り返って見ても、特に何もなさそうです。

「え!私を見ている?!」
自慢じゃないけど、決して人目を引くような美人ではないことは自覚しています。
「外国人には私のこの内面から醸し出される魅力が伝わってしまうのかしら?」なんて妄想も抱きつつ、
その妄想にしがみつかないだけの理性はかろうじてあります。
「じゃあ、顔にご飯つぶでもついてる?」
「一目ぼれ」されるより「顔にご飯つぶ」のほうが、私としては現実的な感じです。
それとなく顔に手をやってご飯つぶを確認します。
何もついていないようです。 「じゃあ、何?!」

その間にも彼のチラチラ見は続いています。
「こんなモヤモヤはイヤだわ!」
電車が停止して、小学生二人が席を立って降りました。
私は彼をしっかりと見て、「何?」とできるだけ柔らかく顔で問いかけました。
すると彼から「空港行きはこの電車でいいですか?」「どこで降りたらいいですか?」と英語で尋ねられました。
なぁんだ、「ご飯つぶ」でも「一目ぼれ」でもなく、「このおばちゃん、英語できるかな?」と迷いながら私のことを見てたのか~!
「この電車で大丈夫。終点が羽田空港ですよ」と答えると、彼はとても安心した様子でした。

次の駅で、彼と私の間に大人が二人座りました。
「せめてこのくらいの会話はできてよかったわ」と満足感に浸っていると、ハッと気づきました。
「彼の言う「空港」って、国内線?国際線?」「国際線だったら、一つ手前だわ!」
彼に確認しなくちゃ!
でも、大人二人の頭越しに英語で会話する自信も勇気もありません。
う~ん、しかたがない! 
席を立ち上がって彼の前に立ち、「国際線?国内線?」と聞くと、「国際線」との返事です。
おお、危なかった。あやうくミスインフォメーションをするところだった!
「国際線ターミナルは、終点の一つ手前だから次の駅ですよ」と伝えることができました。

「それにしても英語で車内インフォメーションしてるよね」と思って耳を澄ましてみると、なんと日本語でしか案内がされていません。
ええっ!? 国際線ターミナルに停車するにもかかわらず、英語の車内案内がされてない?!大都市東京で!?
私の乗った電車だけだったのかな? 

話、変わって・・・。
空港で働いている知り合いの話。
海外から到着の車椅子利用のお客様を税関までお連れしたところ、
担当した税関の職員が英語を話せなかったというのです。
お客様がとても困った様子だったので、知り合いが通訳をして何とか税関を通ったとのことでした。

え?税関って海外の人が通過する場所ですよね!
そこで働く人が英語が話せないって、あり?
たまたま知り合いが出会った職員だけだったのでしょうか?
それにしても、ね・・・。

京急の車内案内が日本語だけだったことといい、税関職員が英語を話せないことといい、これでいいんですか?
もちろん、私たち日本人が海外に行っても日本語での案内はほとんどありません。
でも、だからと言って、多くの外国人が絶対に利用する現場で、英語の対応が無いなんて、そんな仕事の仕方でいいんですか?
これはもちろん、個人の問題というより、会社や組織の問題だと思いますけど、こんな仕事の姿勢って、私にしたら論外だなと思います。
利用する人たちのことを考えたら、こんな仕事の仕方にはならないと思うのですが・・・。

もう一つのお話・・・。
去年研修会で出会った方は、ある組織の非常勤職員でした。
お昼をご一緒して、その方がとても誠実な心優しい人であることを感じました。
だからこそ、その組織での「こなす」仕事になじめず苦悩している様子でした。

その方から、先日メールをいただきました。
その方はかなりの数の面談を担当していて、その仕事の姿勢として
「1件ごとにそれぞれ大切な面談の機会ですので、真摯に対応したいと思っています。
たぶんそのような姿勢が、あまり組織の仕組みにあわないのかもしれませんが、
人と人との関わりの中で大切なことは見失わずにいたいと思っています。」
そう書かれていました。

組織の中では、その方のような(心を込める)仕事の仕方はあまり歓迎されないのかもしれません。
もちろん、効率も大切にしなければならないでしょう。
その方はそのことも十分に理解しながらも、やはり「大切なことを大切にしていこう」とご自分の姿勢を貫いています。
数多くの面談を心を込めてやっていくことは、そう簡単なことではありません。
職場で肩身の狭い思いをしながらも「心を込める」ことを譲らないその方を、私はリスペクトします。
その方が、ご自身の持ち場で最大限頑張ってくれている。

面談の時に、自分の問題を事務的にこなされる人と、人として真摯に向き合ってもらえる人とでは、
その人の気持ちやその後の生き方に違いが生まれると思います。
はっきりと目には見えないけれど、その方はこの社会に優しいエネルギーを増やす仕事をしていると思います。

一人一人やることは違っていても、
自分がその仕事ではたすべきことは何なのか、
自分の仕事から目の前の人はどんな影響を受けるのか、
そんなことを意識して仕事をするのは当たり前だと思っていましたが、
今の世の中は必ずしもそうはなっていないようです。

その方のように(無意識にでも)自分の仕事の意義や意味を知った上で誠実に真摯に取り組む人がもっと増えたら、
今よりもずっとストレスが少なくてお互いに優しい気持ちを持ちあえる社会になると思います。

そうは言っても、組織の中で「大切なことを大切にしていく」ことは時に難しく、
流されそうになったりあきらめそうになったりするのもわかります。
私のクライアントさんの中にもそういうジレンマを抱えている人たちがいます。
そのような心ある人たちを支えることも、私の仕事の一つだと思っています。

セッションで、「自分が仕事を行う上で何が大切か」「どんな思いを持ってやっていきたいか」
「この仕事をする誇りは?」などを確認して
ぶれかけた自分軸をもう一度立て直して、みなさんは改めて仕事の現場に出ていきます。

クライアントさんたちが質の良い気持ちの良い仕事をしていくことを支えることは、
私の喜びであり使命の一つだと思っています。

仕事の結果が、人にストレスを感じさせたり尊厳を損なうようなことが無いように。
これ以上ギスギスしたりストレスを生み出さない社会になるように。

仕事であれ何であれ、一人一人が目の前の事や人に誠実に心を込めて向き合うことが、
人任せにせずこの社会を心地よいものにしていく一番の近道だと、私は思っています。