二人の薬剤師
掲載日:2025.01.28
私が「自分にはできないな」と思う職業の一つは薬剤師です。
あくまで私の想像ですが、
医師なら内科とか耳鼻科とか自分の専門分野とせいぜいその周辺の知識と情報だけ
(とは言っても広く深いとは思いますが)で済むところを、
薬剤師は医療に関わるあらゆる分野の薬の知識を習得していなければならない。
しかも薬は日々進化して、新しい薬や新たにわかった副作用など、
常に知識をアップデートしていかなければならないと思います。
私にはとても無理だと思います。
おまけに調剤薬局にいる薬剤師さんは、
医師から処方箋された薬の説明を患者に手短にして手渡すだけ。
ちゃんと手渡されるのが当たり前で、
何か不都合があればクレームが来る。
私の薬剤師さんのイメージはそんな感じで、
苦労は多いけどあまり報われない仕事という印象です。
そんな薬剤師さんと、この数か月の間に少々関わりを持ちました。
一人目は、去年緊急入院した病院の薬剤師さんです。
入院して間もなく、病室に30代くらいであろう爽やかな青年があいさつに来ました。
「こんにちは。僕、入院病棟専属の薬剤師の○○です」
そこから病歴やお薬手帳に基づいた質問等を受けました。
その時に「スティーブンス・ジョンソン症候群で大学病院に緊急入院したことがある」
と伝えると、彼の表情が変わりました。
「僕、スティーブンス・ジョンソン症候群を発症した方に出会ったの初めてです」
「詳しい話を聞かせてください」となり、
発症時のことをいろいろと質問されるままに伝えました。
一通り私の話を聞いた彼は、
「少しの間お薬手帳をお借りしていいですか?」と言い、
翌日に手帳を返してくれました。
「今後、薬の処方の時に薬剤師が気づきやすいように書かせてもらいました」と
返された私の「お薬手帳」には、付箋が張られていました。
「○○歳時にスティーブンス・ジョンソン症候群を発症」
「原因は△△や□□という抗生剤の疑いが濃厚」
「これらの抗生剤は避けたほうが良い」
など、詳しく注意事項が書き込んでありました。
薬剤師さんとこんなに身近に話したことはなかったし、
薬剤師さんの人柄を感じるような接触もこれまでなかったので、
彼の誠実な人柄と仕事ぶりに、感心すると同時に温かいものを感じました。
そんな彼の注意喚起が、先日私を救ってくれました。
歯ぐきが腫れて歯科医院に行った時に
「細菌のせいで腫れているので細菌を殺す薬を出します」と言われました。
以前にも同様の症状の時に抗生剤を出されて、
「5日間服用」の薬を1日どころか1回飲んだだけで具合が悪くなったことがあったので
「抗生剤で以前体調が悪くなった」ことを伝えたところ、
「じゃあ、前回と違う薬を出しますね」ということになりました。
その処方箋を調剤薬局に持っていき、順番を待っていました。
そろそろ私の番という頃に、私のお薬手帳を持った20代くらいの青年が
薬を入れたカゴを持って窓口に近寄り私を呼び出そうとしたその時に、
彼はお薬手帳の付箋に気づいたようでした。
そこから彼は付箋に書かれていることを読み出し、
しばし固まったように私には見えました。
どうしていいかわからなくて呆然としているように見えました。
「ああ、これは時間がかかりそうだな」と、その時私は感じました。
彼は私がいるところからは見えない奥に入って出てきません。
時々出てくることはあっても分厚い本?のようなものを調べたり、
また奥に引っ込んだり、途中で先輩のような人に話をしたり、
明らかに彼が動揺していることが見て取れました。
ややしばらくして彼は何か所かに電話をかけ始めました。
薬のメーカーに確認の電話を入れたり、
処方した歯科医院にかけているのではないかと思いました。
かなり時間をかけてやり取りをしていました。
「ごめんね、めんどくさい患者で」。
そんな気持ちで待っていました。
そんなこんなでかなり時間が経ってから、私は呼び出されました。
「今回処方された薬は名前は違うのですが以前処方された薬とほぼ同じものなので、
また体調を崩す可能性が大きいです。
スティーブンス・ジョンソン症候群を発症されたことがあるということなので、
今回は同じ効能で成分が異なる別の薬に変更したほうが良いと思い、
お医者さんに了解してもらいました」
と彼は汗だくになりながら説明してくれました。
「お世話をかけましたね」と私は彼に丁寧にお礼を伝えました。
20代の、まだ経験の浅い彼にとっては緊張する出来事だったと思います。
改めて、薬剤師というのは「問題がなくて当たり前」で、
何か問題が発生したら大変なことになる職業だと感じました。
処方された3日分の薬を服用するに際し
私は自分の身体の反応に注意深く過ごし、
3日間を無事に乗り切り歯ぐきの痛みも解消しました。
それで一件落着だったので、そのままでよかったのですが、
きっと彼も気にかかっているのではないかと思い、
私は彼に大丈夫だった報告とお礼を伝えたいと思いました。
その薬局に電話を入れました。
「3日前にそちらで薬を処方してもらった浜田です。
薬剤師の○○さんをお願いしたいのですが」と伝えると、
受付の事務の人が緊張したのが伝わってきました。
「いえ、クレームじゃなくて、お礼です」と伝えると、
事務の人が安心したような声になりました。
ちょうど彼はお休みということだったので、
事情を説明して、おかげさまで副作用もなく痛みも無くなったことを伝え、
「彼にお礼をお伝えください」という伝言をしました。
今回のことが彼にとっての良い経験になり、
お礼を伝えることが彼の励みになり、
ますますの成長につながってくれたらいいなと思いました。
30代の入院病棟専属の彼といい、
今回の20代の彼といい、
二人の若い薬剤師さんに私は助けられました。
報われることはあまりない仕事かもしれないけれど、
ここに薬剤師さんに感謝している人間がいることを記しておきたくなりました。